The Month’s Special
ケニア
2015.07.09
現地のビジネス手法を学びながら、日本企業の特性を発揮。──鈴木浩二さん・阿子島文子さんインタビュー

ケニアに現地法人を設立し、ニキビケア商品やリップバームなどスキンケア商品の販売をスタートさせる『ロート製薬』。本業と並行して、「余剰農作物を利用した高付加価値スキンケア商品事業準備調査」の本格実施に向けた準備も着々と進めている。ケニアでビジネスを展開するために必要なことを、本社で指揮を執る鈴木浩二さんと、現地で奔走する阿子島文子さんに伺った。

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ケニア調査プロジェクトメンバー。右から2人目が阿子島さん、3人目が鈴木さん。

ケニアではどんな事業を展開されていますか?

鈴木 以前から、イギリス子会社のメンソレータム社を通じて南アフリカ共和国で「DEEP HEAT」という消炎鎮痛剤や男性用スキンケア「OXY」など数種類の製品を販売していました。2013年に現地法人を設立したケニアでは、それらのラインナップに加えてニキビケア商品「Acnes」やおしゃれなリップバーム「LipIce」の販売も始めます。

アフリカ市場に注目する要因は、第一に、当社製品のターゲット層である若年層の人口が増加していること。ただ、適切な原材料で、高い品質を保った商品を提供しようとすると、中間所得以上の方々にご購入いただく価格になってしまいます。そこで、現地に職場を提供しながら所得の向上に寄与し、地元の農産物を活かしたケニアならではの製品作りを目指すため、「余剰農作物を利用した高付加価値スキンケア商品事業準備調査」を当社とアライアンス・フォーラム(AF)財団と共同で計画したところ、JICAの「BOPビジネス調査対象案件」に採択されました。 

「BOPビジネス調査対象案件」とは?

鈴木 ケニアで生産されている農作物を元に、スキンケア商品の原材料をつくることが可能かどうかを調査します。現地では道路などの輸送インフラが整っていない地域が多く、収穫された農作物が都市部へ運ばれる間に傷み、廃棄されることが少なくありません。それを見越して、業者は農家から作物を安く買い叩くこともあるようです。

そこで、当社が適正な価格で農家から作物を買い取り、さらに、農作物を加工する過程においても、女性をはじめ、仕事を得にくい方々に働く場を提供することで、現地に付加価値を提供できるのではないかと考えています。どんな製品を開発するかは、農作物の種類はもちろん、市場での価格や、残留する農薬の有無などさまざまな角度から調査しないとわかりません。ケニアのナイロビに阿子島という社員が赴き、本業と並行して調査事業を進めています。

BOPビジネスとしての可能性は?

鈴木 調査事業を含めたケニアでの事業は、個人的には低所得層向けの「BOPビジネス」を行うという感覚はそれほど持ち合わせていません。何かを必要とされる人がいたら、その要望を満たす商品を、手の届く価格でお届けするのが私たちのミッションです。先進国、途上国、中間所得層、低所得層と、それぞれに合うかたちで提供するだけです。その一部がBOPビジネスと言われていますが、特別なビジネスではないと捉えています。

ただ、低所得の方々に当社の製品を購入していただくためには、その方たちの所得が増える必要があります。そのためには、現地で製造工場を設け、そこで仕事をしていただき、得られた収入で購入していただくという仕組みをつくらなければなりません。

企業は社会の公器であるという考え方があります。当社もケニア社会の公器となって、存在価値を示しながらも社会に付加価値をつける存在でなければならないでしょう。ただ、ケニアでの事業はリスクを伴いますから、長期の視点で捉え、持続可能な方法で少しずつ拡大していければと考えています。

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ケニアではチャリティマラソン大会が盛んに行われる。2013年6月にナイロビ郊外で開催されたマラソン大会に、『ロート・メンソレータム・ケニア社』はスポンサーとして参加。製品ブース前で販売卸代理店の社員と記念撮影。前列右が阿子島さん。

ケニアでのビジネスで心がけている点は?

阿子島 昨年5月に現地法人『ロート・メンソレータム・ケニア社』を設立し、1年ほど経ちました。ビジネスで心がけている点は、柔軟な考え方を持つことです。ケニアでは売れないだろうという日本の常識からの思い込みを持たず、ケニアの方々の日常生活を実際に経験しながらニーズを把握するように心掛けています。マーケティングやマネジメントの方法についても発想の転換が大切です。

さらには、人と人との関係性を重要視する“ネットワークビジネス”が得意なインド系ケニア人が台頭していること、依頼された以上の仕事はしない植民地支配のビジネス形態が根付いていること、異なる民族どうしの複雑な関係も頭に置いておく必要があります。そんなケニアのビジネス社会に入り込むには、現地のビジネス手法を学び取りながらも、人材教育に力を入れ、真面目にコツコツと仕事を積み重ねていく日本企業の特性を発揮していくことも大事だと考えています。

AF財団・JICAとの調査案件の展望は?

阿子島 ケニアはもちろん、アフリカは大きな可能性を秘めています。まだまだ市場規模の課題や様々なリスクはありますが、購買行動も活発ですし、人々はポジティブで明るい。健康や美しさに対する意識もとても高いです。そんな可能性を後押しする事業として、AF財団・JICAとの調査案件に取り組んでいます。

まだ、調査スケジュールを組み立てている段階ではありますが、何が何でも成功させるという一直線のプランではなく、実際に現地で起きているありのままの状況を受け止めることが第一だと考えています。もしも、成功へのストーリーを描くことが困難なようであれば、その
ときは新たな方策に転換するという、柔軟な姿勢も必要となるでしょう。必ず方策は見えてくるはずなので、現地住民の声に耳を傾けながら、フレキシブルな姿勢で成功を目指したいと思っています。

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阿子島さんの右腕となって仕事をする2名のケニア人社員。男性はマーケティング担当、女性は総務担当。現地採用した若い人材を育成しながら事業を展開している。